7.発明の把握

発明の把握ができない

A.発明の把握ができない若者が大半

 ここ4−5年、顕著に現われている事実がある。優秀な大学あるいは大学院を卒業した者で、まるっきり発明を理解できないために特許事務所に入ったものの仕事ができず、結局は事務所から消えていってしまうという事態が頻発しているのだ。

 明細書作成者の指導も行う私が、こいつなら大丈夫と期待を持って入所を勧めた者の多くがこれらの者に該当してしまう。特許事務所に入所して駄目になるもっとも多いケースは技術が理解できないというパターンである。最先端の技術にあこがれて特許事務所に来たいという人も多いが、何もテレビで先端技術を面白く解説しているものを毎日鑑賞しているのとは訳が違う。

 誰も今まで思い当たらなかった技術思想としての発明を扱う以上、当然、分からないことを解る力が要る。こいつは大丈夫かなと思った入所者の半数以上はこの段階で駄目になる。もちろん、技術系で現場経験者である。超有名大学卒、大学院卒がほとんど討ち死にする。みんな真剣に明細書をマスタしようとするのだが。

 技術が理解できるのだが、発明を把握できない、あるいは技術はまだ完全に理解していないのに発明を理解してしまったという者が大変多くなってしまった。後者は先の技術を理解できない者と結局は同じである。本人に聞くと発明者の言っている技術について何も問題がなく、発明を把握できたということになる。しかしながら、本人の言っている発明がまったく私には理解できない。

 要は、技術を理解しているか理解していないかすら分からない若者が急増してしまった。発明の理解などはその先の作業だから、これについては完全にお手上げである。どうしてそうなったのか、20年以上特許技術者をほそぼそ育ててきた私にとってこれは大きな問題であり、疑問であった。

 最近、ようやくその解答を得たような気がしてきた。彼らには既存のマニュアル通りのことしかやれない、物事の全体観察ができない、考えることができないという点が共通している。その原因の大きな部分はどうもコンピュータゲームにありそうだ。プレステ等のゲームに長期間はまっていると、どうもマニュアル人間になるようだ。そればかりではない、発明の把握に必要な直感がなくなってくるのだ。特に男性の場合には純真な場合が多いので、ゲームに嵌まりやすい。

B.ゲーム的思考の弊害

 下の絵を見ていただきたい。ゲームを行っている者の分身でもあるゲームの主人公(絵で山を登っている若者)は、ただひたすらに悪者(オバケ)を退治してゲームを進行させていく。これには忍耐強さが要求される。挑戦力も発揮される。しかしながら、若い時代にひたすら身についていることは何だろうか。敵をやっつけるためのアイテム探しや障害を打破するためのトリックを見つけること、あるいは敵を倒すための指を敏しょうに操る練習がほとんどだ。

 今日もバトル

 それではアイテム探しや障害を打破するためのトリックを探すアクションは、直感的なものであろうか。残念ながら、直感的なものではゲーマーに飽きられてしまう。そこで、意外なことというか、裏をかくようなこと、そのようなものを探していくことが日常化してしまう。いわばゲームは直感力あるいは総合分析力を無くすための訓練だ。

 発明者の書いた難解な文章から発明を理解するには、発明者の言おうとしていることを幾つも推論して、その中でどれが発明者の言おうとしていることかを検討していく必要がある。これは名探偵が幾つもの推論を立てながら犯人を探していくのに非常に似ている。

 しかしながら、コンピュータゲームの主人公は敵と戦う、あるいは障害をくり抜けるために1つの道を正しく進み、その度に現われる障害をクリアすることが求められる。1つの敵を倒せば、次に準備された敵が現われるまで平和である。このようにして決められた道を、まるで小学校から大学に進むようにきちんと守って進んでいく。

 幾つもの分かれ道を作ってあげることは、ゲーム制作者に負担を掛けるだけだ。ゲーム制作者の論理に従ってただただ進めば、必ずよい事(ハッピーエンド)があるという教えに従う者、すなわちマニュアルに従って忠実に働く人間が養成されていく。人と違う発想をする、あるいはそのような発想を理解して補強するという特許の世界で必要な力が全然育たなくなる。

 良く言うと、その場その場で全力を尽くす忍耐強い人間ができるが、過去と現在のデータを基にして将来のことを予想するというような計画性のあることは苦手になってしまう。

 発明の把握あるいは相手の言っていることを正しく理解し、更にそのポイントを掴むと言うことは、上の絵でいえばスーパーマンみたいなものだ。もちろん、正義のために戦うときは戦うが全体を観察し、進んでいく道を自ら決める。全体的な観察も必要だ。


C.脳を鍛えよう

 いよいよ、発明の把握と言う本題にはいれそうだ。ついでであるが、ある品川のお医者さんがテレビに出てて、上と同じようなことを言っていた。最近の若者は思考をまともに行えない老人と非常に似ているそうだ。違っている点は、ハードウェア(脳味噌)を点検してみると特に障害がない点であり、ハードウェアが老朽化しているのではない。キーボードやコントローラを高速で操るのみのムカデ型脳組織になっているのかも知れません。人間は筋肉でもそうですが、鍛えないとその部分が発展しません。

農地?

 発展途上国の若者は目が輝いている者が多いようです。自分が何かしなければならないという危機意識や貪欲な欲望を持っている人が必然的に多いのかもしれません。

 カラスは犬よりも頭がよく、特に都会のカラスはかなりの思考力があるようです。

 発明の把握は、従来技術という各種の思想を比較し得て初めて成立する比較的高度な作業です。

 発展途上国の若者や都会のカラスに負けないよう、日本の若者も脳地改革に励みましょう。

 なお、前記した老人ボケ専門のお医者さんは、若者の脳を刺激して、最近の若者に欠けている考える脳を作るソフトも開発しているようです。







D.物事の理解とは

 

 物事をちゃんと把握する癖を付けないと発明を把握することはできません。ところが前にも説明したように、明細書の実施例もよく分からない状態で発明を把握して特許請求の範囲を書いてしまう珍現象が数多く発生しています。

 これについて、右の図および右下の図は私の推論です。右の図の方が通常の人の理解の仕方と考えます。発明についての他人の説明書(提案書)を読むと、通常は幾つも分からない点が出てきます。このとき、「わからない」ということは、その基となる新たな技術事項(図で新技術)と自分の知っている技術とが非連続であること、すなわちそれらの間に断層が発生しているということではないでしょうか。

 このような場合には、自分のデータベースとしての技術的連続性のある部分と「新技術」との接点を構築すれば、「新技術」が自分の小学校あるいは中学校で学んだ技術的基盤と連続になります。これが技術的な理解ではないでしょうか。また、技術的な理解が正しく行われることが、発明の把握につながります。





 左下の図の方は、発明を理解したと早合点している人の話を聞いて、これを技術的に分析すると生じる態様です。「新技術」を言葉通りに納得してしまったり、その「新技術」の理解のためにこれに登場する用語を更に調べさせても、その用語の意味を調べた時点で、それが自分の納得している技術と結びつくかどうかを検証するまでもなく「理解した」と納得するようです。結局、自分の確実に知っている小・中学レベルまで技術の連続性を持たせることができないので、更に質問すると、答えに窮してしまいます。


 

 情報化社会の中で、取り入れる情報が飛躍的に多くなったので、頭の中で整理せずに切り貼りする癖がついてしまったのが原因なのでしょうか。あるいは、携帯電話機の画面でやりとりする文章のように理由も付されない簡単な文章ばかりが横行する世の中になってしまい、考えるということを忘れてしまったからなのでしょうか。

 いずれにせよ、
「新技術」の内容をしっかり理解できない限り、従来技術との比較もできないし、この「新技術」を用いた技術から発明の本当のポイントを把握することは難しいと思われます。

 ちょっと脱線してしまいましたが、次のページでは発明を把握する上での上位概念と、下位概念を考えて見ましょう。






CONTENTSに戻る

次のテーマへ